コロナ禍を終えて~みなさんにお伝えしたいこと~

 2020年2月より突入したコロナ禍も2024年5月に終焉を迎え、通常の生活にもどり1年が過ぎました。医療における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するすべての保険的な特別扱いが終了し、日常生活におけるマスクの着用や新型コロナウイルス検査の不要な社会となりました。

 5年前、新型コロナの存在が確認され、その高い致死率の情報を聞いた際、私は血の気が引きました。致死率10%にも及ぶという初期情報でした。政府からは緊急事態宣言が発出され、「これは大変なことになる」と思ったのと同時に、もし診療をするなかでコロナにかかり命を落としたとしてもそれが医師の使命であり、そこから逃げ出してはダメだと死の覚悟をしたことを今でも覚えています。そしてホームページにはこう記載しました。「私たちにできることは何でしょうか?それは、感染対策を行うことで、感染拡大のスピードをゆるめ、コロナウイルスが弱毒化し、すべての人がワクチンを接種し終えるまでの時間をかせぐことです。」と。

 この時間をかせぐ間に、コロナにかかって失われる命もあるでしょう。新型コロナワクチン副反応により失われる命もあるでしょう。自宅待機をすることで発見が遅れ、癌で失われる命もあるでしょう。それでもこの致死率の高いウイルスを無防備に蔓延させてしまったら、松江市だけでも数千人の死者がでることになります。そうさせないように、他の医院が診療拒否をしているときでも、発熱患者さんを断ることなく診療し、ワクチン接種も休日返上で接種を行いました。開業医としてはいちはやく高度のHEPAフィルターのパーテーションを7台設置し、コロナウイルスのPCR検査機器も2台導入し、新型コロナウイルスの診療を行いました。検査だけして聴診器もあてない、のども診ない。そんな医者にだけはならないよう、医師の使命を全うしたつもりです。

 この間、何度も院内でカンファレンスを行い、ウイルスやワクチンの勉強会を行いました。院長の「こどもにとってまっとうな治療をする」という理念に共感してくださったスタッフのみなさんも、看護師さんだけではなく、医療知識のない受付の事務さんも一人も退職希望されることなく、診療を行うことができました。私は、このスタッフの皆さんの事を誇りに思いますし、かけがえのない人達だと思います。

 

 mRNAワクチンという新しい手法のワクチンも最初のアルファ株には95%以上の効果がありました。これは驚くべき効果でした。これまでの既存の不活化ワクチンの効果を考えて、私は最初は高く見積もって60~70%ぐらい効くのかな、ぐらいに考えていたので、「えっっ?!」と思わず声を出したほど効くワクチンでした。その後ウイルスが変異を繰り返したため、徐々にその効果が落ちていきましたが、変異ウイルスも毒性を徐々に失っていったため、感染者が増えても、死者が激増することはなく推移しました。またなぜか東洋人では致死率が低かったことも日本には幸運だったと思います。

 

 2023年の新型コロナウイルスによる死者数は厚生省の人口動態調査では38086人で全死亡数1576016人中第8位の死因でした(2024年の結果は集計未)。これは高いのでしょうか?低いのでしょうか?多くの方はこれを高いと実感するほど新型コロナウイルスで亡くなったかたが身近にはおられないのではないかと思います。入院施設のある病院の医療者からみるとそうではないでしょうが、対応できる範囲内ではないでしょうか?

 現在流行しているのはオミクロン株の亜型で、病原性は季節性インフルエンザと同等程度です。また変異もオミクロン内で変異するのみで、なぜか変異の程度がすごく少なくなっています。今後高い病原性のものに変異する可能性を否定はできませんが、もう普通の風邪と考えるのが妥当なところです。病原性の高いものに変異したら、またそのときに対策を強めればよいだけです。

 

 マスクについては、一定の効果はあると思います。ですが、わたしはもうこの微々たる効果のためにこどもにマスクを強要する社会が正しいとは思いません。顔をみて表情をみて獲得するコミュニケーション能力が欠落する可能性があります。夏には熱中症のリスクにもなるでしょう。エチケット程度でお考え下さい。

 

 コロナ治療薬に関しては12歳以上に対してゾコーバという内服薬があります。インフルエンザにおけるタミフルと同じようなもので、発症72時間以内に内服すると効果があります。もし内服を希望されるのであれば、発症初期になんどか調べることをお勧めします。またその際は、自宅での検査をお勧めいたします。そのほうが、気楽になんどでも調べることができるし、せっかく病院に受診しても「発熱直後だからまたあした受診して」と言われることもないでしょう。11歳以下の人の場合、特殊な事情を除きコロナ検査は不要です。入院するほどでもない軽症の病気を症状があるからとすぐ検査をする世界はもう忘れてください。新型コロナが爆発的に増えるのを防ぐ、時間を稼ぐために政府が発出した緊急事態のために行われていた検査です。時間を稼ぐという命題を達成できた今、新型コロナの検査は、症状があるからとすぐ行うものではありません。またその他のウイルスも同様です。アデノウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス…など、症状がでてすぐ検査を行うものではありません。検査をすることで、その子の治療方針が変わるときのみに検査を行うのがまっとうな医療です。当院のホームページの病院の理念にも記載しているとおりです。「必要な検査もこども第一で考えております。どのような検査でも、されるこどもにとっては不安であったり、嫌だったり、痛くてしたくなかったりするのが普通です。当院ではこどもにとってメリットの無い検査は実施致しません。風邪や胃腸炎のウイルスは多種ございますが、そのウイルスを特定することで治療が変わらないのであれば、検査をするべきではありません。」

 

 ワクチンについては、コロナという特性上、血管内皮障害による血管系の副作用がでる可能性がごくわずかですがあります。そのため当院ではコロナワクチン接種後1週間は激しい運動を控えるようお伝えしてまいりました。1週間以内の血管系合併症による突然死を防ぐためです。この合併症とワクチンの効果を天秤にかけて接種するかどうかを個人で決めるのがこれからの世の中です。新型コロナはワクチン未接種の人が生まれて初めて罹患した場合には比較的に強い症状となります。乳幼児期では新型コロナ感染により血管系の合併症や脳炎のリスクがあります。松江市内でも乳幼児で年に1-2人、コロナによる脳炎や脳梗塞が発生しています。現状コロナは年に2回流行しているため、インフルエンザよりもやや重症の子どもさんが多い印象です。もしもっと安全なワクチンが開発されたときには、生後6か月から接種するべきだと思いますし、母子免疫ワクチンとして母体へのコロナワクチン接種も推奨されることと思います。その際には、当院ホームページでアナウンスしてまいります。

 

 今後ただ1つみなさんに実行してほしいことがあります。それは昭和の時代には当たり前であったことです。わたしが研修医の頃、上司の先生が風邪をひいて受診したこどもの親に説明していたことでもあります。それは

「風邪をひいているなら高齢者には会わない、赤ちゃんには近づかない。」

ということです。

 これが最も重要なことです。このことを実行するだけで、いまある多くの感染対策やコロナ検査は不要になります。高齢者にかかるとよくない感染症は、コロナだけでしょうか?いや違います。インフルエンザ、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス、ノロウイルス・・・、何種類もあります。また検査でコロナが陰性だったらいいのでしょうか?いや違います。偽陰性の場合もあります。他のよくない感染症の場合もあります。もうわかりますよね。検査してコロナが陰性だったから大丈夫と言っておじいちゃんのお見舞いにいく、あかちゃんを抱っこする。それが正しい行為でしょうか?いや間違っています。

 今一度昭和の考えを見直しましょう。「風邪をひいているなら高齢者には会わない、赤ちゃんには近づかない。」そうすれば、検査もする必要はありません。核家族化がすすみ、身近に祖父母のおられない方が増えました。そのためこういった当たり前の行動が、今の20代30代の方には当たり前ではなくなってきているように思います。できる方は是非実行していただきたいと思います。

 

 最後になりました。

 コロナ禍の間は、こどもさん、付き添いの方々、大変なご不便をおかけいたしました。政府からの誘導もあったため受診時の注意点などが多かったことと思います。ご協力いただいたすべての方に感謝申し上げます。ありがとうございました。今後も、当院の理念「こどもにとってまっとうな医療をする」を実践し、感染症治療、アレルギー疾患管理、発達障害の分野において日々研鑽をつんでまいりたいと思います。そして、感染症治療、発達外来ならくれこどもだね、と言われるような医院を目指してまいりたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

 

2025年5月3日 くれこどもクリニック 院長 呉 彰

2025年05月03日