RSウイルスワクチン(母子免疫ワクチン)の接種を開始します。

RSウイルス感染症について

 RSウイルスは2歳までにほぼ100%のこどもが罹患するウイルスで急性呼吸器感染症をきたすウイルスです。多くのお子さんは「すこししんどい咳風邪」として治るのですが、生まれたばかりの赤ちゃんや生後6か月未満の乳児が罹患すると症状が重くなります。特に生後1か月未満の新生児期に罹患すると高い確率で入院となり、その一部は突然の無呼吸発作などで重症化することがあり、低酸素脳症による後遺症を残したり死亡することもあるため、我々小児科医が最も恐れるウイルスの1つです。

 

RSウイルスワクチン(ABRYSVO:アブリスボ®)について

 これまでRSウイルスに対しては、早産児や心疾患をもつ重症化のリスクの高いお子さんにだけモノクローナル抗体製剤(シナジス®、ベイフォータス®)による疾患軽症化が行われておりましたが、非常に高額な薬剤のため接種対象者が限られておりました。そんな中、母子免疫ワクチンとしてアブリスボが2024年5月より日本での接種が開始されました。妊婦さんに接種すると、お母さんの体内で抗体が作られ、その抗体が胎盤を通して赤ちゃんに移行し、生まれたあとの赤ちゃんをRSウイルスから守ります。あかちゃん自身が作った抗体ではないため10か月程度で抗体は減少し効果もなくなります。なくなっちゃうならもったいないなと感じますが、生まれてからの6か月間、つまり罹患すると危険な6か月未満での効果を保つためのワクチンです。お母さん側の抗体は10か月で効果がなくなるわけではありません。

 高齢者の死亡率も高く、高齢者に対するRSウイルスワクチン(アレックスビー、mRESVIAなど)もございますが、アブリスボは妊婦さんへの接種の安全性が確認されたワクチンです。

 この母子免疫ワクチンという概念は、今考えが深まっている分野で、他に母体へのインフルエンザワクチンや、新型コロナウイルスワクチン、百日咳の予防のための三種混合ワクチンもそれに該当します。

 

安全性と効果

 国際共同第Ⅲ相試験の結果、母体、出生児、ともにプラセボ群と比べて重大な合併症、全身反応に差はありませんでした。特に心配される早産、子癇前症、貧血、妊娠高血圧などに有意差はありませんでした。長期的な合併症については、今後5年10年の経過をみて判断されますので、現時点では不明です。

 この臨床試験については、院長の印象として、非常に中立に、また非常に詳細にプラセボ群と比較している印象です。母体への接種ということで、安全性を特に重視して試験を行ったのではないかと推察します。稀な妊娠合併症の比較もできるように非常に多数の妊婦さんでその安全性を検討されています。

 結果、特に安全性に問題はないと思います。注射による痛みなどの軽微なもののみで他の既存のワクチンと比べて副反応が強いということはなさそうです。

 

 効果としては、以下のグラフに集約されます。

 RSVを原因とする高度のMA-LRTIの累積発現率のグラフです。プラセボ群に対してどの程度効果があったかが示されています。この高度のMA-LRTIは、RSウイルスで即入院し、低酸素のため高流量の酸素投与や人工呼吸器装着が必要なレベルの強い症状と考えていただければと思います。その率が、生後90日でワクチン非接種者で0.9%、ワクチン接種者で0.2%(有効性81.8%)、生後180日でワクチン非接種者で1.8%、ワクチン接種者で0.5%(有効性69.4%)でした。

 これはかなりきつい症状の感染者のものであり、入院するほどでもないぐらいの症状の赤ちゃんも含めれば、ワクチンの恩恵は大きいでしょう。

 

 

接種対象者

 妊娠28週~36週の妊婦さん

 (24週から接種可能ですが、28週以降が有効性が高いため28週以降の接種をお勧めいたします。できれば32週~34週での接種がよいと思います。)

 接種して効果がでるまで2週間程度必要であるため、接種後2週間未満での分娩の際には効果が不十分となります。

 必ず通院中の産婦人科の先生に接種してもよいか許可を得てからご予約下さい。

 

接種費用、接種回数

 31000円(税込)

 1回接種

 

予約方法

 webでの予約はできません。

 直接お電話にてご予約ください。また高額なワクチンのため、接種料金は前払いとさせていただきます。前払いで来院時にカルテと診察券を作成いたしますので、マイナンバーカードか保険証も持参してください。支払い後にワクチンを発注致しますので、届くまで1週間程度のお時間をいただきます。日時に余裕をもってご予約いただければと思います。

 また、支払い後、体調不良を含めいかなる理由であっても支払い料金の返金は致しません。高額なうえ利益のないワクチンであるため、何卒ご了承下さい。もし今後ある程度の数の接種希望者の方がおられるようでしたら、こういった状況を無くしていけるかとは思います。

 ただ、今後、産婦人科医院での接種が浸透すれば、当院は接種を終了しようと考えております。

 

接種日は

 持参するもの

①予診票

②母子手帳(赤ちゃんの)・・・赤ちゃんの母子手帳に接種の記載を致します。

③マイナンバーカードまたは保険証(お母さんの):本人確認のため

 

また別稿の予防接種の項目もお読みになり注意事項などご確認ください。

2024年12月28日